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2019年4月 9日 (火)

名前の付け方にもそれぞれに風情がある

最近、ぼくたちの耳に届いた名前のひとつが「令和」です。日本の元号は「漢籍から」という伝統は「令和」でも、密かに、そして同時にしっかりと守られており、しかも、当時(後漢時代のある時期)のうんざりするような政治状況からの個人的な離脱を韻文にまとめたある文人の思い(そこに「令」と「和」を含む情景描写が添えられている)を、この新しい年号はゆるやかになぞっているようにも思えます。

「シャクナゲ」や「ツツジ」や「タンポポ」といった花の名付け方には風情はありますが、それとは違った種類の風情を持つ名前の付け方も存在するようです。

以下は「Chinese ancient poetry」というウェブサイトからの「歸田賦(きでんふ)」の引用です。(「歸田賦」は「田園に帰ろう」というような意味の詩。下線は「高いお米、安いご飯」)

歸田賦

朝代:兩漢
作者:張衡

遊都邑以永久,無明略以佐時。徒臨川以羨魚,俟河清乎未期。感蔡子之慷慨,從唐生以決疑。諒天道之微昧,追漁父以同嬉。超埃塵以遐逝與世事乎長辭
於是仲春令月,時和氣清原隰鬱茂,百草滋榮。王雎鼓翼,倉庚哀鳴;交頸頡頏,關關嚶嚶。於焉逍遙,聊以娛情。
爾乃龍吟方澤,虎嘯山丘。仰飛纖繳,俯釣長流。觸矢而斃,貪餌吞鉤。落雲間之逸禽,懸淵沉之鯊鰡。
於時曜靈俄景,繼以望舒。極般遊之至樂,雖日夕而忘劬。感老氏之遺誡,將回駕乎蓬廬。彈五絃之妙指,詠周、孔之圖書。揮翰墨以奮藻,陳三皇之軌模。苟縱心於物外,安知榮辱之所如。

下は「歸田賦」の作者「張衡(ちょうこう)」についてのそのサイトの説明(Who is he的な)です。西暦78年に南陽に生まれ139年に死去。後漢の人です(中国では後漢は東漢、前漢は西漢)。それによれば、張衡は政治だけでなく理系と文系のさまざまな分野で才能を発揮した(今風に言えばマルチタレントな)高級官僚でした。文人というのがいちばんふさわしいようです。

張衡(78-139),字平子,漢族,南陽西鄂(今河南南陽市石橋鎮)人,我國東漢時期偉大的天文學家、數學家、發明家、地理學家、製圖學家、文學家、學者,在漢朝官至尚書,爲我國天文學、機械技術、地震學的發展作出了不可磨滅的貢獻。

今回の記事は長めの引用ばかりで恐縮ですが(ぼく自身の備忘録も兼ねているので)、「坂口安吾」が太平洋戦争の敗戦日の直後に書いた「続堕落論」の一部を続けて引用します。

 『いまだに代議士諸公は天皇制について皇室の尊厳などと馬鹿げきったことを言い、大騒ぎをしている。天皇制というものは日本歴史を貫く一つの制度ではあったけれども、天皇の尊厳というものは常に利用者の道具にすぎず、真に実在したためしはなかった。
 藤原氏や将軍家にとって何がために天皇制が必要であったか。何が故に彼等自身が最高の主権を握らなかったか。それは彼等が自ら主権を握るよりも、天皇制が都合がよかったからで、彼らは自分自身が天下に号令するよりも、天皇に号令させ、自分が先ずまっさきにその号令に服従してみせることによって号令が更によく行きわたることを心得ていた。その天皇の号令とは天皇自身の意志ではなく、実は彼等の号令であり、彼等は自分の欲するところを天皇の名に於て行い、自分が先ずまっさきにその号令に服してみせる、自分が天皇に服す範を人民に押しつけることによって、自分の号令を押しつけるのである。
 自分自らを神と称し絶対の尊厳を人民に要求することは不可能だ。だが、自分が天皇にぬかずくことによって天皇を神たらしめ、それを人民に押しつけることは可能なのである。そこで彼等は天皇の擁立を自分勝手にやりながら、天皇の前にぬかずき、自分がぬかずくことによって天皇の尊厳を人民に強要し、その尊厳を利用して号令していた。』

ある頃から権力ではなく権威しか持たない立場で、時代時代の権力者を立てながら自分の領分はしっかりと確保し、そして自分の思いもひそかに貫くことに千数百年以上にわたって長(た)けた方たちからすれば、「令和」という着地点への誘導はとくには難しい作業ではなかったのかもしれません。生きている中に自分の戒名を僧侶に作ってもらう伝統的なかたもいらっしゃいますが、そういう意味では「令和」は前もって用意された諡号(しごう《おくりな》)です。

そういうことを夢想することのほうが、欧州ではどういうわけで「シャクナゲ」を「ロード・デンドロン(rhododendron):バラ色の木」などと名付けたのかを考えるよりも刺激的です。

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