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2019年5月20日 (月)

変体仮名から漂う伸び伸び感

じつに奇妙な言葉だけれど、そういうことになっているのでとりあえずその用語を使います。奇妙な言葉とは「変体仮名」のことです。

「ひらがな」は現代では一音一字ですが、平安時代以来明治の半ばまで、さまざまな種類の字体が用いられてきました。現在、変体仮名と呼ばれている文字は、現在のというか、明治33年(1900年)に標準的な字体とされた平仮名に対しての異体字という意味です。ヘンタイという音はどうも変態を連想させるので、だから、異体仮名というほうが音からくる奇妙さは軽減されます。

下は『字典かな』という小冊子から「あ」の項をコピーしたものですが、「安」からできた「あ」という標準的な仮名字体と、「阿・愛・亜・悪」から派生したところの「あ」と発音される異体仮名が並んでいます。

Photo_10

こういうのは、今は、江戸時代やそれ以前の和本や文書を読むことが仕事の一部であるような人や仮名書の世界に遊ぶ人以外にはとくには必要のない知識ですが、まだ筆で書かれた手紙や葉書の遣り取りが珍しくなかった頃はある程度は必須でした。

「いろは歌」というのがあります。

「いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす」

わかりやすく漢字かな交じり文で書くと(下の表記以外の表記法もありますが)

「色は匂へど 散りぬるを わが世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて 浅き夢見し 酔ひもせず」

「いろは歌」の漢字表記は、文献上の最も古い例(『金光明最勝王経音義』)を引用すると

「以呂波耳本へ止 千利奴流乎 和加余多連曾 津称那良牟
有為能於久耶万 計不己衣天 阿佐伎喩女美之 恵比毛勢須」

「あさきゆめみし」の「あ」はここでは「阿」と表記されていますが必ずしも「阿」である必要はありません。仮名や変体仮名にはけっこう自由な雰囲気が漂っているようです。

中国人は自分の発明品であり文明の源であるところの「漢字」を、必要に応じてどんどんと新しく作りましたが、日本人にとっては「漢字」は中国という文明先進国からの輸入品だったので、新しい熟語(とくに近代西洋生まれの概念や観念の漢語表現、たとえば「哲学」「意識」「観念」「左翼」など)をのぞいては新しい漢字(たとえば「峠」)はほとんど製造しませんでした。自制心のようなものが働いています。しかし(変体)仮名の世界ではその制約がないので、行書、草書と崩していく過程で、楽しく自由にその作成と適用を発想しているようにぼくには思えます。

 

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