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2019年10月11日 (金)

18歳の吉田健一と27歳のジョーン・ロビンソン

本棚の奥に紙が経年変化した「経済学の考え方」(宮崎義一訳)という本があります。著者はジョーン・ロビンソンという1903年に生まれ1983年に亡くなった女性経済学者です。その本の隣には「ゆたかな社会」(ガルブレイス著)が立っています。サムエルソンのような無味乾燥な内容の著作が得意な学者とは違って、彼女は思想的、情熱的な経済学者でした。
 
「経済学の考え方」の訳者あとがきにあるように、彼女は別の著書で「経済学を学ぶ目的は、経済問題について一連のでき合いの答えを得るためでなく、いかに経済学者にだまされないようにするかを習得するためである」と言っており、その言葉がそっくり「経済学の考え方」の内容要約にもなります。
 
彼女は何度かノーベル経済学賞の受賞候補に挙がりましたが、受賞できなかった理由として選考委員会の委員長は「賞を辞退する恐れもあったし、脚光を浴びる機会に乗じて主流派経済学を批判する可能性も考えられたからである」と述べたそうです(この項はWikipediaを引用)。
 
吉田健一の著作を拾い読みしていたら、短いケンブリッジ留学時代の思い出を書いたエッセイに次のような一節がありました。
 
「教育すると言っては言ひ過ぎで、彼(【註】ディッキンソンという長老フェロー)の態度にそのやうな所は少しも見えず、又事実、彼は若いものと付き合うこと自体に興味を持ってゐたらしく、彼の部屋での集まりは、寧ろサロンの感じがした。ライランズもよく来た。他に、二年、三年の学生や、ライランズと同年輩の教授達やその夫人達、それから、アイルランド系ではないかと思われる、会ってゐて何とも明るい感じがする、名前は忘れたが女の経済学者も、ディッキンソンの所に集まる常連の一人だった。一年生で来るのは、ロオスと私位なものだった。」
 
調べてみると、その女の経済学者がジョーン・ロビンソンで、吉田健一がケンブリッジにいたのは1930年から1931年なので、18歳の先の見えない暗い感じの吉田が、27歳の「何とも明るい感じがする」ジョーン・ロビンソンと出会っていたことがわかります。
 
ただそれだけのことですが、吉田は才気煥発な27歳がけっこう気になったのでしょう。27歳がその18歳をどう思ったのか、その18歳とどんな会話を交わしたかはわかりません。
 
そういう一節を眼にして本棚を確かめに行ったらいくぶん茶色くなった「経済学の考え方」が奥の方にあったというわけです。


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