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2024年3月29日 (金)

思わず引き込まれてしまうエッセイや小説の最初の数行

専門書だとそういうのは難しいと思われますが、本屋で小説でもエッセイ集でもなんでもいいのでその本を手にとって最初から読み始めたときに、出来のいいのは初めの数行ですっとその世界に誘い込まれるし、すっとでない場合であっても何かとんでもない内容があとに潜んでいるかもしれないと予感して強引にその世界に引っ張り込まれてしまうこともあります。

どちらにせよそういう巧みな導入部をもった吉田健一のエッセイを以下に並べてみます。「・・・」はエッセイのタイトルで、その下の《・・・・・》がそれぞれの最初の数行です。文章らしくない文章を読み続けるという作業をしていたので、その口直しにこんなことをやってみました。

「金沢(エッセイ)」
《旅行をする時は、気が付いて見たら汽車に乗っていたという風でありたいものである。今度旅行に出掛けたらどうしようとか、後何日すればどこに行けるとかいう期待や計画は止むを得ない程度にだけにして置かないと、折角、旅行しているのにその気分を崩し、無駄な手間を取らせる。》

「ある田舎町の魅力」
《何の用事もなしに旅にでるのが本当の旅だと前にも書いたことがあるが、折角、用事がない旅に出掛けても、結局はひどく忙しい思いをさせて何にもならなくするのが名所旧跡である。極めて明快な一例として、鎌倉に旅行した場合を考えてみるといい。あまり明快でそれ以上に、何も言う必要はないだろうと思う。》

「ピアノ」
《ヴェルレエヌの詩に、と書くと、もう話がどこか湿っぽくなって来るのは、これはヴェルレエヌのせいではなくて、この詩人が日本で受けた扱いがそういう性質のものだったことを示すものに過ぎない。ヴェルレエヌがマリア様に縋ったからという理由で、白樺だの、夢二の絵だのと一緒にしたのでは、この飲んだくれで好色漢の詩人の作品を読んだことにはならないので、マリア様や海よりも美しい伽藍は、日本で北海道の白樺の額縁に入れた絵になる前から、別な形でヨオロッパにあった。》

「英語上達法」
《英語というのは絶対に覚えられないものなのであるから、そういうことは初めから諦めた方がいい。仮に、英語が読めたり、話せたりする人間がいたら、それは英語を知らないからそういうことができるのである。このことは、日本の英語の先生が真先に承認してくれるに違いない。英語の本が読みたければ、大概のものは翻訳されているし、英語が喋りたければ、通訳というものがある。無理する必要はない。英語を覚えようとする位の暇があるならば、エジプト文字でも勉強することである。》

「金沢(小説)」
《これは加賀の金沢である。尤もそれがこの話の舞台になると決める必要もないので、ただ何となく思いがこの町を廻って展開することになるようなので初めにそのことを断っておかなければならない。併しそれで兼六公園とか誰と誰の出身地とかいうことを考えることもなくて町を流れている犀川と浅野川の二つの川、それに挟まれていて又二つの谷間に分けられてもいるこの町という一つの丘陵地帯、又それを縫っている無数の路次というものが想像できればそれでことは足りる。》


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