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2024年3月26日 (火)

人工知能化がとても難しいかもしれない身体の場所

動物が植物や他の動物、あるいはその両方を動き回ることによって食べないと生きていけないのに対して、植物は太陽と雨と土(の中の無機物)と空気中の二酸化炭素があれば光合成をしてその場を動かずに独りで生きていけます。そういう違いがある。庭のローズマリーでもタイムでも、あるいは近所の原っぱのスギナやドクダミでも何でもいいのですが、植物はその場を動かずに生長し続けます。

三木成夫の著した「生命形態学序説」を参照すると、植物的な営みとは、「栄養と生殖」を軸としたプロセスであり、動物的な営みとは、「感覚と運動」を軸としたプロセスですが、動物やヒトには、植物的なもの(栄養と生殖にかかわる植物性器官、あるいは内臓系)と動物的なもの(感覚と運動にかかわる動物性器官、あるいは体壁系)の双方の営みが存在します。

動物における植物性(内臓系)器官とは、吸収系(腸管系)と循環系(血管系、その中心が心臓)と排出系(腎菅系)にかかわる器官のことであり――昔からの用語だと「五臓六腑」――、また、動物性(体壁系)器官とは、感覚系(外皮系)と伝達系(神経系、その中心が脳)と運動系(筋肉系)にかかわる器官のことです。そしてヒトは「栄養と生殖」を軸としたプロセスにおける栄養面を、動物にはないところの知能・知性と技術を使って、つまり農業革命や産業革命などを通して、それなりに変化させました――動物から見れば、劇的に。

そういうさまざまな系の中で、カーツワイルの「シンギュラリティは近い」で言及されているような人工知能的な対応がいちばん困難なのは消化・吸収系(腸管系)のなかの腸ではないかと、その本を読みながら、直感的にそう思いました。

胃はそうでないとしても、知性の象徴としての脳やこころの象徴としての心臓と違って、愚鈍だとされていたのが実はとても賢いということがだんだんと解ってきた腸は――それで腸は第二の脳と言われるようになった――人工知能的な対応、つまり人工知能によってそれを置き換えたり、あるいは腸の機能を人工知能で補完したりすることが脳を相手にするよりもよりも難しいかもしれない。

モノの本によれば、腸には一億以上の神経細胞があり、これは脳よりは少ないとしても脊髄や末梢神経系よりも多く、脳とは独立して自らの判断で機能しています。腸は、脳からの指示を待つことなく消化吸収排泄という機能を自律的に遂行している。

腸には迷走神経という太くて大きな神経が埋め込まれています。その神経繊維の90%までが腸から脳へと情報を運んでいることが明らかになってきたそうです。脳は腸からの信号を感情に関するそれとして解釈します。感情を支配するところの脳内神経伝達物質の代表的なものにドーパミン(快感ホルモン)やノルアドレナリン(ストレスホルモン)やセロトニン(幸せホルモン)がありますが、その多くは腸で作られています。

また腸(腸菅関連リンパ組織)には体内の免疫細胞の70%が棲んでおり、免疫細胞は外部から侵入した細菌や食物に混じった毒物をそこで撃退してくれます。脳が唇や舌といっしょに騙されて旨そうだからと口にしてしまったものが実際には危険因子を含んでいた場合は、下痢などの症状を起こして自らそれらを武力排除するわけです。

つまり、腸は相当な以上の智慧と力を持っている。

腹や腑という言葉を使った心理や感情に関する表現は日本語に多くて、「どうも腑に落ちない」「腹に落ちた」「腹が立つ」「腹の虫が治まらない」「腹をくくる」「肚の底から」などいろいろあります。

植物系(内臓系)器官の中核は心臓であり、動物系(体壁系)器官の中心は脳だとして、脳が「知性や知能」なら、心臓は「こころ」です。脳死という状態を死とは言えないとするのは、体壁系の「知性や知能」が機能を停止しても、心臓という内臓系の「こころ」が死んではいない状態を死とは言えないとすることですが、その「知性や知能」と「こころ」の両方をサポートしている控えめなインフラ的存在が腸なのかもしれません――どういう風にそうなのかはわからないとしても、第六感がそう囁きます。なぜなら、「知性や知能」が届かないその先で理解しているのが腑に落ちるということだし、腹をくくると「こころ」も落ち着きます。

腹や腑を使った多くの表現が決して廃語にならないのは、腸に係るわれわれの集合的無意識が、腸の明示的でなかった役割に共鳴し、今までも今もその智慧を後押しし続けているためとも考えられます。だとすると、そういう高度に洗練された場所であるところの腸の非生物的な人工知能化は、あるいは腸の人工知能的なハイブリッド化は簡単ではなさそうです。


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