農業ビジネス

2017年3月21日 (火)

札幌のタマネギと昭和10年頃の野菜倉庫

明治の初めに玉ねぎが日本で最初に上陸した地が札幌です。「札幌黄(さっぽろき)」とは、明治時代から栽培され続けてきた札幌のローカルなタマネギのことです。もともとは米国生まれのイエローグローブダンバースという品種ですが、札幌でローカライズされました。日本の伝統種・固定種と定義できるような種類の玉ねぎです。姿は腰高の球形で、美人。大量流通向けのタイプではないので現在では生産量は非常に少ない。
 
 
B2_2 札幌黄と札幌黄の白玉
 
札幌駅から北西に20分ほど電車に乗ると、石を積み上げて作った「組積造(そせきぞう)」の野菜倉庫が残っている地域があります。(地震に強いタイプの建築方法ではありませんが。)
 
札幌北区役所が設置した「篠路(しのろ)駅周辺の倉庫群」という倉庫わきの案内版によると、「昭和10年(1935年)、札沼線の開通により篠路駅は野菜出荷の基地となり、にぎわいを見せた。周辺には石造りの野菜倉庫が立ち並び、全国に向けて玉ねぎなどが送り出された。現在も駅周辺には数棟の倉庫が一群をなしており、市内の他の地域には見られない独特の雰囲気をかもしだしている。 建築年:昭和10年頃、構造:石造・ブロック造など」
 
その「玉ねぎ」とは「札幌黄」のことなので、その頃が「札幌黄」が最も華やかな時期だったのでしょう。倉庫のひとつは、現在は自動車修理工場となって活躍中の様子です。
 
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写真は、現在は自動車修理工場となっている昭和10年頃に建てられた野菜倉庫と、その他の野菜倉庫群

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2016年9月27日 (火)

北見のタマネギ

以下は「台風とタマネギと農産物貨物列車」という少し前の記事の一部です(『・・』部分)。
 
『北海道での収穫量・出荷量が多くて、かつ、北海道の全国に占めるその割合(シェア)が非常に高い野菜にはジャガイモ(シェア66%)、タマネギ(シェア61%)、カボチャ(シェア59%)、ニンジン(シェア32%)などがあります。

今回の複数の台風(7号・11号・9号・10号)で被害の大きかった十勝地方(帯広・芽室・音更・幕別など)や上川地方(和寒・名寄・富良野など)やオホーツク地方(北見・網走など)はそうした野菜の産地です。ニンジンのようにすでに出荷が始まっているのもありますが、これからが旬です。』
 
例年、北海道のタマネギが旬の時期には、北見地方のある農家のものを贔屓にしています。先週末に、その農家のタマネギをある小売店で箱買いしました。箱の中には印刷された小さな挨拶文が置かれており、以下はその一部を引用したものです。
 
「・・・本年8月中旬より、北見地方は度重なる台風の被害を受けました。当園の畑も甚大な水害を被り、収穫がかなり遅くなると共に、すでに湿害(皮腐れ・根腐れ)が多く出ている事から、例年に比べ大幅な減収になる事が予想されます。選別はすべて人手により万全を期しておりますが、湿害は見た目には非常に判断し辛いものも多い為、当該玉ねぎが入っておりました場合は何卒ご理解、ご容赦頂けますよう、お願い申し上げます。」
 
我が家で買ったタマネギは、配偶者とぼくの目には、すべてとても元気そうだと映りました。食べて応援です。「食べて応援」という、状況によってはいささか気になるフレーズも、こういう文脈では、違和感なく使えます。

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2016年9月12日 (月)

「台風とタマネギと農産物貨物列車」補遺、あるいは、北海道産野菜の季節別の移出量

「台風とタマネギと農産物貨物列車」という先週のブログ記事で「北海道での収穫量・出荷量が多くて、かつ、北海道の全国に占めるその割合(シェア)が非常に高い野菜にはジャガイモ(シェア66%)、タマネギ(シェア61%)、カボチャ(シェア59%)、ニンジン(シェア32%)などがあります。」と書きました。
 
量を勘案してもっと要約すると「ジャガ(イモ)・タマ(ネギ)・ニンジン」ということになります。
 
北海道産野菜の(2013年の)季節別の移出量をきれいにまとめたグラフに新聞紙上で出合ったので引用させていただきます(データソースは北海道開発局)。蛇足ですが、移出量とは北海道から他の地域への国内移出量のことです。保存のきくジャガイモやタマネギは翌年の春まで出荷されていきますが、夏野菜の移出は8月、9月、10月に集中します。だから、農業関係者は、現在、野菜の複数の移送手段の確保に懸命です。
 
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2016年8月 5日 (金)

グローバル化する食と、自家製の梅干し

食のグローバル化とは、世界中の人たちが同じようなもの・似たようなものを食べるようになることで、つまりは、食べものが均質化するということです。
 
食や農業は、人々が自分の生活地で生き延びるためのローカルな営みでした。しかし、農業が経済化し、ここに農産物輸出国の活動とグローバル経済を基盤とするアグリビジネスの活動が加わると、世界中の人が同じような食材を同じような調理法で食べるようになります。これが食のグローバル化です。グローバル化の進んだ食材や料理は細かい品質差異を気にしなければ手に入れ易く、同時に他に奪われやすいという性格を持っています。
 
一方、地域独自性を維持した食材や料理はその逆の性格をそなえています。ある文化圏は別の文化圏のよくわからない食べ物ををわざわざ口にすることに興味がない。各国で個別に発展した発酵食品などがその典型です。
 
自宅で作る、主な基礎加工食品や漬け物の類は以下の通りです。冬から季節の順にならべてみます。グローバル化した食べものとその逆の性格の食べものはその中にどれほどあるか、確認する気になりました。
 
◇冬(12月から2月)
 ・橙(だいだい)のマーマレード
 ・橙(だいだい)のポン酢
 ・べったら漬け(この漬物をご存知ない方は【「べったら漬け」に関する註】をご覧ください)
 ・味噌(仕込み、大豆は北海道産、食べるのは2年以上寝かせてから)
 
◇春(3月から5月)
 ・べったら漬け
 ・ラッキョウの甘酢漬け(ただし、毎年ではない)
 
◇夏(6月から8月)
 ・梅干し(仕込み、食べるのは1年半から2年ほど寝かせてから)
 ・梅ジャム
 ・実山椒の塩漬け
 ・しば漬け(乳酸発酵バージョン)
 ・バジルソース(バジルは自宅で栽培)
 ・トマトソース(近所の農家で栽培している調理用トマトを使う)
 
◇秋(9月から11月)
 ・スダチのポン酢
 ・柚子胡椒(ゆずこしょう)
 ・タクアン(仕込み、食べるのは翌年の年明け以降)
 
【「べったら漬け」に関する註】:縦に二つに切った大根のまとまった大きさの切り身を塩漬けにしたのを、わずかな塩と唐辛子と柚子を加えた甘酒(できたら自家製のそれ)に、五日から一週間くらい漬けこんでおくと、「べったら漬け」ができ上がります。軽い塩味と軽い甘みがコラボした、タクアンなどとは方向のちがう軽快な感じの大根の漬物です。
 
自宅で作る主な基礎加工食品や漬け物の類には、橙のマーマレードや梅ジャム、バジルソースやトマトソースなどグローバル的な雰囲気の食べもの、つまり興味を持った他国に奪われる(あるいは、逆に他国から同じものや代替品が流入してくる)可能性のある食べものもあります。しかし、あとは、主食であるところの安心なジャポニカ米や安心な魚やチキンのような地元の動物蛋白と野菜が身近にあれば、それらを補完する基礎加工食品として、そういうことを気にせずに暢気にかまえていられるものばかりです。
 
我が家で手掛ける加工食品の中では仕込みまでの必要工数がいちばん多く、また天候や陽射しなどへの気遣いがとくに多いのが梅干しです(タクアン用大根の天日干しにも気を使いますが)。作業が面倒くさいと感じられるときには、そういうことも考えます。
 
下の写真は梅の土用干しの二日目。
 
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2016年7月 8日 (金)

カップ麺と化学調味料

次のような新聞記事が目に入りました。
 
「味の素、南米でカップ麺、ベトナムでは調味料を増産」「味の素は南米でカップ麺市場に参入する。ペルーに新工場を建設し、同国を中心にチリなど4か国に販売する。ベトナムではうま味調味料『味の素』を増産する。南米や東南アジアでは中間所得層の増加に伴い、加工食品や外食需要が拡大している。市場に合わせた製品投入で・・・(後略)。」(日本経済新聞 2016年7月5日)
 
食のグローバル化とは、世界中の人たちが同じようなもの・似たようなものを食べるようになることで、つまりは、食べものの均質化ということです。農産物や食のグローバル化に関して、大まかにまとめてみると、以下のようになります。
 
□食や農業は、そもそもが、人々がそこで生き延びるためのローカルな営みである。嗜好品や贅沢品以外の農産物の貿易率は低い。
 
□農業が経済化し、農産物輸出国と農産物輸出国と密接な関係を持ったアグリビジネスのマーケティングや政治活動によって、世界中の人が同じような食材を同じような調理法で食べるようになった。これが食のグローバル化である。たとえば、
  ・パンと肉類と油脂類で食の欧米化・グローバル化(60年代以降の日本や最近の中国)
  ・世界中にハンバーガーショップ
  ・世界中で即席麺やカップ麺の消費が進行(51か国で年間1056億食、世界の人口は70億人なので大人も子供もひとりあたり年間15食)
  ・遺伝子組み換え農産物
 
□グローバル化の進んだ食材や料理は手に入れ易く、同時に奪われやすい。
 
□一方、地域独自性を維持した食材や料理(発酵食品など)は食糧安保が楽。たとえば、
  ・ジャポニカ米(世界のコメ消費量の15%)、刺身、ゴボウ、納豆、塩辛
 
農産物の生産はそもそも国内・地域内のローカルな営みで、胡椒やコーヒーといった嗜好品、あるいは高級果物を除き、農産物は国を超えた貿易の対象ではありませんでした。地域単位の地産地消が食の基本です。それぞれの地域や国が必要量を生産し、消費し、不測の事態に備えて少し蓄えておく。だから、農産物の貿易率(輸出量を生産量で割ったもの)は、自動車や石油といった製品に比べると当然に低い。これには、食べものは腐りやすいといういう事情もあります。それから、貿易率という意味では逆に、かつての植民地プランテーションで栽培作物が長年にわたって人為的に単作化されてしまい、それ以外の農産物については今でも輸入に頼らざるを得ないという別の事情を引きずっている国もあります。
 
しかし、農産物余剰国とその農産物余剰国を本籍地とするアグリビジネス(巨大な農業ビジネス)が、他国に対して農産物の販売活動、マーケティング活動を開始すれば、農産物は、衣類や自動車と同じような経済の一要素になり、食は徐々にグローバル化します。食がグローバル化するとは、世界中の人が同じような食材を同じような調理法で食べるようになることです。パソコンやパソコンOS、スマートフォンやスマートフォンOSのグローバル化と基本的には同じことです。
 
一部で最近のはやり言葉になっているらしい「攻める農業」というのも、その中身は、「たとえば、高級メロンや高級マンゴーのような贅沢な付加価値農産物」や「日本では数少ない農産物輸出品目のひとつであるカップ麺のような加工食品」をどういう風に輸出してどういう風に儲けるかということで、人々が地元で継続的に生き延びるための基礎農産物の安定的な生産という視点からは遠いようです。
 
【註】輸出入農産物といった場合、小麦粉やコメやジャガイモやパプリカだけでなく、カップ麺やビール、ウイスキーや煙草も農産物です。
 
最近では「うま味調味料」と呼ばれるようになった「化学調味料」も、かつては日本の食卓の人気商品で「白いふりかけ」風の瓶をよく見かけたものです。しかし、実態は「化学調味料」なので、直接の摂取という意味では日本では人気がなくなりました。もっとも、同じ現象が数年前から東南アジアで観察できます。食のグローバル化の一側面です。
 
この「うまみ調味料」は外食産業では日常活用品目だし、また、小型の瓶の消えた家庭の食卓から化学調味料がすっかり消えてしまったかというと決してそうではなく、後を引くような刺激的でおいしい味付けがされた加工食品や何とかの素という別の形でしっかりと浸透しています。
 
4年前の関連記事は「白いふりかけ、あるいは、うまみ調味料」。

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2016年4月26日 (火)

TPPとニュージーランドの酪農に関する雑感

TPP協定の第三十章が「最終規定」ですが、その本文(和訳)の最後のあたりは次のようになっています。

「第三十・七条 寄託者
1 この協定の英語、スペイン語及びフランス語の原本は、ここにこの協定の寄託者として指定されるニュージーランドに寄託する。・・・後略・・・」

「第三十・八条  正文
この協定は、英語、スペイン語及びフランス語をひとしく正文とする。これらの本文の間に相違がある場合には、英語の本文による 。以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。二千十六年二月四日にオークランドで、英語、フランス語及びスペイン語により作成した。」

各国代表が署名に集まったオークランドはニュージーランド最大の都市。TPPの最初の4か国はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイなので、ニュージーランドが協定の寄託者(Depositary、書類を預かる人) および署名地に選ばれたのでしょう。

TPPへの参加を表明している国で、酪農が圧倒的に強いのがニュージーランドです。米国などもまったくかなわない。たとえば、牛乳の生産コストは、日本はニュージーランドの4倍高く、米国はニュージーランドの2倍くらい高い。しかし、平らな地面が見渡す限り広がるような国ではない。どうやっているのか。

酪農専門家の資料(酪農学園大学 荒木和秋教授の資料など)を参照すると、ニュージーランド酪農の特徴は、以下の通りです。

・牛を牧草地をローテーションしながら通年放牧、したがって牛舎は持たない
・牧草に依存した季節繁殖、配合飼料は使わない、冬季は休む
・利益を圧迫する機械設備は所有しない、契約で外注サービスを利用
・利益を生まない施設(サイロや牛舎)は持たない

たいていの米国や日本の酪農家が好きな「立派な牛舎で、濃厚な配合飼料」というのとはずいぶんと違った方向を向いています。農家のコスト意識が強く、牛は放牧地でのびのびと暮らせて幸せそうです。

北島と南島からなるニュージーランドの国土面積は約27万平方キロメートルで、日本よりも狭い。日本(約38万平方キロメートル)の71%です。お隣の巨大なオーストラリアと比べるととても狭い。しかし、主要産業は、農業(牧畜・酪農)と林業です。牧畜と酪農のための広い放牧地はどこにあるのか?

United Kingdomという括りでの英国における牧草地は、長い時間をかけて雨や風と折り合いをつけたような具合に仕上がっていますが、ニュージーランドの牧草地は、とても自然な感じとけっこう無理をしている不自然な感じが共存しているような印象です。観光目的でない写真を見るとそう思う。

国土に占める牧草地の割合を確かめたかったので、ニュージーランド統計局 (Statistics New Zealand) のサイトを訪問しました。2012年現在の数字でいうと、

・牧草地(ただし、森林を開墾して牧草地に転化したもの)の割合は39.8%
・もともとは原生の草むらでそれが牧草地になったものの割合は8.6%
・原生林の割合は23.8%
・植林の割合は7.5%
・残りの20.3%が、裸地や湖水、農地や住宅地など。

ニュージーランドは、もともとは、つまりマオリがニュージーランドを発見したころは国土の85%が森林(原生林)だったそうなので、国土の60%以上の面積に相当する森林(原生林)がなくなったということになります。森林(原生林)が開墾されて、牧畜や酪農のための牧草地へと変貌したわけです。

【註】ちなみに、FAOの国別・森林率推計(2013年)によれば、日本の森林率(国土に占める森林面積の割合)は68.5%、ニュージーランドのそれは38.5%。ニュージーランドでは原生林が伐採・開墾されすぎたので、植林をするようになった。FAOの森林の定義は少し広いのかもしれない。

ニュージーランド人と何度か仕事をしたことがありますが、農業や酪農といったものとはまったく無関係な分野だったし、その場所もニュージーランドからは隔たったところだったので、ヒトの数よりヒツジの数が多い国の人という以上の印象はありませんでした。性格の温和な人が多そうだというのがその時の印象です。

しかし、こういうタイプの、つまり、MBAの教科書に載っているような合理化・効率化の方向とは位相のずれたタイプの原価や経費の削減方法に長けているとは意外でした。ただ、原生林の相当部分を消滅させ続けてきたツケ(たとえば、山から森林がなくなると近隣の海は痩せる)がどうなっているのか、酪農との帳尻合わせという意味で、気になるところではあります。

北海道も明治以降、森林が開墾されて畑地になりました。現在進行中のものや、開墾されて間もない畑地もあります。以下(『・・・』部分)は、数年前(2009年5月)にぼくが書いた「北海道東北部の開墾地」に関する雑文から一部を引用したものです。ぼくにとってはいいものを見たという意味で印象的な光景でした。

『タマネギで有名な北見市から石北峠に向かう道路は、無加川(むかがわ)という川に沿って伸びていますが、この道路に沿って、正確には川に沿って、いかにも開墾地という光景が広がっています。どれほど前に開墾したのでしょうか。バスの窓から見た景色です。川の名前は、その場で、手元の地図で調べました。

奥行きが60~100メートルくらいの幅の畑作地が川に沿って、程よい区切りをつけながら、延々と続きます。畑作地のすぐ向こうは、高さ10メートルくらいの白樺の密集した林です。白樺林を切り倒して、開墾したのでしょう。木を切り倒すのは勢いでできそうな気もしますが、残った木の根っこを掘り起こして耕作地にするには結構な量の作業と忍耐が必要だと思われますが、その忍耐の量が伝わってきます。

そのようなことをぼんやりと考えながらバスに揺られていると、まさに今開墾中の区画が現れました。木は切り倒してありますが、木の切り株はまだそのままです。開墾を中止して打ち捨てられた一画かなとも思いましたが、そこだけが別扱いということは、その一角までの、そして、周囲の雰囲気からしてなさそうです。1~2ヵ月後にはできたての耕作地になっていることでしょう。』

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2016年3月30日 (水)

北海道新幹線の乗車率と他の新幹線の乗車率、羽田-札幌便の搭乗率

開業日の直前と開業日には例によって「大本営発表」みたいな雰囲気の報道ばかりでしたが、報道内容も三日目の夜になると、再び例によって、少し落ち着いてきました。

「北海道新幹線の乗車率、初日は61%、2日目37%」

「JR北海道は28日、開業2日間(26、27日)の北海道新幹線(新函館北斗―新青森)の乗車実績を公表した。26日は約1万4200人で乗車率は約61%。前年同期の在来線特急と比べ3・3倍増えた。27日は約8700人で同2・1倍増。乗車率は約37%だった。
 開業後9日間の平均の予約率は約24%(21日現在)で、JR北は平均の乗車率を約26%とみている。島田修社長は「平日になるとさらに落ち着いていく、と予測せざるを得ない」と話し、ゴールデンウィークや夏の行楽期に乗車率を上げていくための営業強化が不可欠だとした。」(朝日新聞デジタル 2016年3月28日20時40分)

この平均乗車率が25%程度というのは確かに低いようです。だから、夜の車両なら、昔のジャンボジェットのエコノミークラスみたいに、まん中4席がつながったところを独り占めして、幅の狭いベッド風に横になって、朝の到着時までひと眠りという贅沢に近い贅沢ができるかもしれません。もっとも、新幹線の場合はそんなことをしたら同一車両の他の乗客の顰蹙を買うという可能性が高いし、車掌も注意しに飛んでくるかもしれません。

乗客の利便性の高さと企業の収益性の高さという二つの観点からもっとも参考になるのが東海道新幹線の乗車率ですが、東海道新幹線の平均乗車率は58%~60%くらいだそうです。

北陸新幹線はどうかと云うと、開業3ヶ月間の平均乗車率は47%だそうです。相当に高い数字です。金沢やその周りの観光地や温泉地に行くには新幹線の方が圧倒的に便利なので、そういう利便性が反映された数字になっています。能登に直接に行きたいような場合を除いて、北陸への飛行機便は、新幹線が走ってしまえば、魅力がありません。

札幌は飛行機でないと本州の主要都市との往復が困難な土地ですが、ある程度の頻度で利用する札幌-東京便も、それから札幌-大阪便も、常にほぼ満席状態という印象のある路線です。念のために、その路線のJALグループとANAの2014年度の搭乗率を調べてみると非常に高い(JAL、ANA発表データ)。70%から80%という数字は、乗り込んだ乗客の皮膚感覚には、ほぼ満席状態と伝わってきます。

伊丹-札幌線: 79.0% (JAL)  77.8% (ANA)
羽田-札幌線: 74.2% (JAL)  68.4% (ANA)

そしてそういう便の乗客は、観光のハイシーズン以外は、ぼくの経験値でも60%から70%はビジネス客、あるいはビジネスではないのかもしれないけれど観光目的以外の目的で飛行機を利用する人です。観光客以外の利用客が安定して増えないと50%を超える乗車率や搭乗率はむつかしい。

同じく(JALグループとANAの2014年度の)旅客数は、上位4路線を並べてみると次のようになります。

羽田-札幌線: 3,089,196人 (JAL)  3,651,334人 (ANA)
羽田-福岡線: 2,960,727人 (JAL)  3,307,423人 (ANA)
羽田-伊丹線: 2,555,268人 (JAL)  2,719,359人 (ANA)
羽田-那覇線: 2,353,605人 (JAL)  2,330,048人 (ANA)

この数字に、その他の航空会社の数字を付け加えると、羽田と札幌を飛行機で飛んだ人は大ざっぱ計算で1年間に700万人くらいということになります。

最初に引用した記事の「27日は約8700人で・・・乗車率は約37%だった」という記述から、年間を通しての一日あたりの平均乗客数が10,000人、つまり、平均乗車率が42~43%とすると、年間乗客数は365日で3,650,000人になり、これはJALグループの羽田-札幌線の旅客数を超え、ANAの旅客数に匹敵します。

ただし、こういう数字が生まれるためには、飛行機の様に観光客だけでなくビジネス客も安定的に利用することが条件になります。その条件とは、つまり、

1. 北海道新幹線が札幌まで来ていること

2. 東京-札幌間は4時間前後(今の東京-函館間の4時間2分程度)

3. そのために、新幹線と青函トンネルを共用している貨物列車との棲み分け具合の変更。

【3.の註】 青函トンネルを新幹線といっしょに通過する貨物列車はJR(JR貨物)にとって高収益ビジネスであるはずで、しかも、旬の季節には北海道の三大農産物であるところのジャガイモ・タマネギ・ニンジンなどの農産物が北海道から本州に臨時便で大量搬送されていく。だから、そういう意味では、新幹線は貨物列車の隙間を、貨物列車の速度で走らせてもらっていることになる。この状況の住み替え、ないしは、画期的に格安な工法でもできない限りは無理な選択肢ですが、現在の青函トンネルを新幹線用とし、別に安価な貨物用のトンネルを用意。

現在の北海道新幹線の乗車率がある程度上がっていかないと今後の見通しも悪くなるので、函館市や北斗市、およびその周辺にお住まいの方は(函館市の人口は27万人、北斗市は5万人)、首都圏方面に出かけるときは、飛行機を利用せずに、少々余計に時間がかかっても往復とも必ず新幹線、ということにしたらいかがでしょうか。食べて応援ではなくて、乗って応援です。

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2016年3月15日 (火)

規格外野菜を利用する農家、規格外野菜は使わない農家

トマトの季節に、ミニトマトを二つに割り、強い太陽で天日干しをしてセミドライトマトをつくると、パスタ料理やその他の料理が楽しめます。

イタリアやトルコ、カリフォルニアなど地中海性気候の地域のトマトは種類が加工用トマトなので、そこで作られるドライトマトも加工用のトマトを使ったものです。しかし、日本のトマトはほとんどが生食用トマトです。生食トマトを使ってドライトマトを作っている農家(農業協同組合)が熊本にあります。

「冬春トマト」の熊本らしく1月から6月までの季節限定商品ですが、規格外トマトや熟しすぎたトマトを捨てるのはもったいない、それらを捨てずに付加価値商品を作り出そうということでドライトマトを製造し始めたそうです。大玉トマトを10等分程度にカットしてドライトマトにします。

その商品に初めて出合ったのは数年前ですが、興味深かったのでその農協のドライトマト担当の女性に電話をして、ドライトマトが生まれた背景や作り方などをおうかがいしたことがあります。何度か購入してトマト向きの料理に使ってみました。小さくカットしてパン生地に投入するとトマトパンになります。規格外や熟し過ぎを利用したビジネスですが、このドライトマトはロングセラーになっています。

北海道に、有機栽培野菜をカットし冷凍加工して袋詰めにした「冷凍有機野菜」を製造販売している農家(農業法人)があります。対象野菜は、ミックスベジタブル用にはスイートコーンとニンジンとインゲン。それから、カボチャ。甘みを出すために熟成させたあと食べやすいサイズにカットし蒸気で蒸したあと冷凍パックします。

当初は、規格外の野菜を農閑期(冬場)に加工するという意図で始めたらしいのですが、「規格外」というキーワードと「農閑期限定」というキーワードの組み合わせでは、上手くいかなかったそうです。つまり、採算が合わない。

したがって今では、冷凍有機野菜という加工食品作りは通年業務になり、それから、規格外野菜の利用というと形の悪いものや傷ものも対象なので作業効率が悪く商品そのものも満足できるレベルにはならなかったので、規格外の利用は断念し加工食品向けの品種の栽培に切り替えたそうです。熊本のドライトマトとは別のアプローチです。

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2016年3月11日 (金)

TPP協定関連資料に目を通す(農業や遺伝子組み換え農産物に関して)(その2)

もうひとつの「さらっとした記述」の例は、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要」「第二章.内国民待遇及び物品の市場アクセス章」の中の「現代のバイオテクノロジーによる生産品の貿易」に関する説明です。バイオテクノロジーによる生産品とは、遺伝子組み換え農作物のことです。

「締約国の法令及び政策の採用又は修正を求めるものではない旨規定した上で、現代のバイオテクノロジーによる生産品(遺伝子組換え作物)の承認に際しての透明性(承認のための申請に必要な書類の要件、危険性又は安全性の評価の概要及び承認された産品の一覧表の公表)、未承認の遺伝子組換え作物が微量に混入された事案についての情報の共有(輸入締約国の要請に基づき輸出締約国において現代のバイオテクノロジーによる生産品につき承認を受けた企業に対し情報の共有を奨励する規定を含む。)、情報交換のための作業部会の設置等について規定。」

遺伝子組み換え農産物は、知らぬ間にというか、なし崩し的に日本市場に浸透しています。その浸透状況は厚生労働省のホームページ「遺伝子組換え食品」でもいちおう確認できますが(そこでのニュアンスは「安心して食べてください」風で遺伝子組み換え作物に関してはとてもポジティブ)、上に引用した文面も、遺伝子組み換え農産物のマーケティング・プロモーション・メッセージに見えなくもない。

念のためにTPP協定の原文や和訳(「第二章 二十七条 現代のバイオテクノロジーによる生産品の貿易」)に当たってみると、遺伝子組み換え農産物の生産と流通というものが、TPP協定の中では確固たる前提となっているようです。なぜなら、

「二十七条 1  締約国は、現代のバイオテクノロジーによる生産品の貿易に関する透明性、協力及び情報交換の重要性を確認する。」

「二十七条 3  この条のいかなる規定も、締約国に対し、自国の領域において現代のバイオテクノロジーによる生産品を規制するための自国の法令及び政策を採用し、又は修正することを求めるものではない。」

といった具合だからです(関連記事は「米国のGM(遺伝子組み換え)小麦」)。

第九章の投資に目を移すと、最初に「投資」というものの定義が列挙されています。グローバルなアグリビジネスでは、遺伝子組み換え農産物の種子とその種子だけが耐性を持つ農薬(除草剤など)を農家にセット販売することがビジネスモデルになっていますが、そういう種子や農薬やビジネス・ノウハウは投資財産です。また、NAFTA(北米自由貿易協定)以降何かと批判の多い「投資家と国との間の紛争解決」条項、いわゆるISDS <Investor-State Dispute Settlement> 条項について知りたければ、第九章のB節に詳しく書かれています。

アグリビジネスのセット販売モデルの片割れであるところの農薬(除草剤)を、そういう背景の除草剤とは知らずに、庭の雑草排除に散布している日本の家庭も少なくありません。宣伝も巧みですし、商品はホームセンターや通販で簡単に手に入ります。

外国(TPP参加国でいえば、米国やカナダ)で生産された遺伝子組み換え農産物は、サラダ油や加工食品の原材料、家畜用飼料として、相当に輸入されています。日本では、遺伝子組み換え作物は「商業用には」栽培されていないということになっていますが、バイオテクノロジー企業がその気になってISDS条項を利用すれば、日本での商業栽培も、なし崩し的に始まるかもしれません。

少し長いですが、TPP協定における「投資」の定義を引用しておきます(仮訳文より)。

「『投資財産』とは、投資家が直接又は間接に所有し、又は支配している全ての資産であって、投資としての性質(資本その他の資源の約束、収益若しくは利得についての期待又は危険の負担を含む。)を有するものをいう。投資財産の形態には、次のものを含む。」

(a) 企業
(b) 株式、出資その他の形態の企業の持分
(c) 債券、社債その他の債務証書及び貸付金
(d) 先物、オプションその他の派生商品
(e) 完成後引渡し、建設、経営、生産、特許又は利益配分に関する契約その他これらに類する契約
(f) 知的財産権
(g) 免許、承認、許可及び締約国の法令によって与えられる類似の権利
(h) 他の資産(有体であるか無体であるかを問わず、また、動産であるか不動産であるかを問わない。)及び賃借権、抵当権、先取特権、質権その他関連する財産権

別の関連記事は「日米関係のサブセットとしてのTPP」。

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2016年3月10日 (木)

TPP協定関連資料に目を通す(農業や遺伝子組み換え農産物に関して)(その1)

昨年11月下旬のブログ記事「『TPP協定交渉の大筋合意に関する説明会』に参加してみました」の続きです。

そろそろ日本語訳を含めた品揃えが充実する頃だと思ったので「TPP政府対策本部のホームページ」でTPP協定関連資料(の一部)に、「高いお米、安いご飯」という視点から目を通してみました。

当該ホームページにおけるTPP協定関連資料は、TPP協定の英文、その仮訳文、対策本部や関連省庁が作成した概要説明資料とTPP交渉参加国間のサイドレター(英文、訳文)から構成されています。

TPP政府対策本部の日本語の概要説明資料は、イベント・プロモーターの要約資料や説明資料というものがたいていはそうであるように、日本経済や輸出関連企業に対してTPPが持つアドバンテージが付加価値的に要約・列挙されています。しかし、農業やバイオテクノロジー産品(遺伝子組み換え農産物)、医療や金融といった分野、つまり日本がTPPのパートナー諸国からの輸出攻勢にさらされるであろう分野におけるディスアドバンテージについては、不利なことをわざわざ解説することもないという雰囲気で言及を回避するか、回避するわけにはいかないところはさらっとした記述で済ませているようです。

とはいうものの、農業や農産物について調べようとすると、そういう章があるわけではないので全体を眺めて関連個所の当たりをつける必要があります。そういう場合には、対策本部作成の概要悦明資料が便利です。「第二章 内国民待遇及び物品の市場アクセス」と「第七章 衛生植物検疫 (SPS) 措置」、「第八章 貿易の技術的障害 (TBT)」、それから「第九章 投資」や「第十八章 知的財産」などに目を通したら、農業や農産物に関してプロモーターが明らかにしたがらない重要問題に出合えそうです。

さきほど「さらっとした記述」と書きましたが「さらっとした記述」とは、たとえば、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要」の「第二章.内国民待遇及び物品の市場アクセス章」の中の「譲許表(附属書)」に関する説明です(漢字の連続でさらっとしているとは云い難い文章ですが、それはさておき)。

(【蛇足的な註】(関税)譲許表 じょうきょひょう schedule of (tariff) concessions:GATT加盟国が関税引き下げ交渉の結果合意・調印した、特定産品に対する一定の関税率を国ごとにまとめた表。 1995年以降はWTO協定に引き継がれた。)

「我が国及び他の締約国の個別品目の関税の撤廃又は削減の方式、関税割当の詳細、個別品目のセーフガードの詳細等について規定。なお、我が国は、TPP協定の効力発生から7年が経った後、又は、第三国若しくは関税地域に特恵的な市場アクセスを供与する国際協定の発効若しくは改正の効力発生に必要となる我が国と当該第三国等による法的手続が完了した後、相手国からの要請に基づき、自国の譲許表で規定される関税、関税割当て及びセーフガードの適用に関連する原産品の取扱いに関して協議を行う旨を定める規定を、豪州、カナダ、チリ、NZ及び米国との間で相互に規定。」

上記の要約のもとになった英文、ないし仮訳文に目を通した方には、これが、今回は日本が関税撤廃を約束しなかった443品目の農林水産物についての議論だということが理解できますが、このなにげなく書かれた要約を見ているだけではなんのことかよくわからない。

この箇所のもとの仮訳文(の一部)は次のようになっています(第二章の「附属書二-Dの日本国の関税率表」)。

「9(a) オーストラリア、カナダ、チリ、ニュージーランド又はアメリカ合衆国の要請に基づき、日本国及び当該要請を行った締約国は、市場アクセスを増大させる観点から、日本国が当該要請を行った締約国に対して行った原産品の待遇についての約束(この表における関税、関税割当て及びセーフガードの適用に関するもの)について検討するため、この協定が日本国及び当該要請を行った締約国について効力を生ずる日の後七年を経過する日以後に協議する。」

つまり、日本が関税撤廃を約束しなかった農産物の443品目に関しては、発効日から7年後の見直し協議では、当然のことながら、オーストラリア・カナダ・チリ・ニュージーランド・米国というTPPの農産物輸出国が農産物の関税撤廃などを迫ってくる。そういう場面は想像に難くない。日本にとってのそういう火種が最初からきちんとビルトインされています。

(その2に続く)

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